セシルの日記 14
はじめて魔道船に乗る前、シドとキタキタおやじが生きていたことを伝えるため、バロンとファブールに向かった。もしかしたら月から戻ってこれないかもしれないから、これだけはやり残しておきたくないと思ったからだ。
シドの弟子たちにそのことを伝えると、殺そうが死ぬような人じゃない、と言ってはいたが、目に少し涙を浮かべていたのを俺は忘れない。城の人たちと話をしているうちに、城の地下に幽霊が出るという話を聞いた。あまり時間も無いのだが、せっかくだからと見に行ったら、そこにバロン王がいた。どうも死んだ後、幻獣オーディンになったようだ。愛馬スレイプニルにまたがり、グングニルで残鉄剣をくらわしてくれる。それだけの人が、なぜカイナッツォにやられたのだろうと質問したら、水のバリアがうざくてサンダーやったら自分に落ちてしまったのだそうだ。バロン王、あんたって人は……。
ファブールに行って事情を話すと、キタキタおやじの奥さんからフライパンを渡された。これで起こせってことだろうか。いくらなんでもフライパンはないだろ。みんなはどうもこれを使って起こしたくないらしく、期待のまなざしは俺に向けられていた。こういうことばかり期待されてもな……。シルフの目を盗んで思い切り叩いてみた。結果的に目覚めてくれたからいいが、二度と目覚めることの無いような状況になったらどうするつもりなんだ。まぁ、全部俺のせいにするんだろうな。特にカインあたりが。それにしても、キタキタおやじはいつもこんな起こされ方をしてるのか……。
ゼムスは月の地下渓谷という、月の地下深くにいるということで俺達は月の地下をどんどん進んでいった。そこはとても綺麗な、そして幻想的な場所だったが、やたらと敵が強い。どこからこんな奴らが沸いてくるのかと思うくらいだ。普通にボスクラスの敵がウヨウヨしている。ベヒーモスに出くわした時はもうダメかと思った。
リディアがベヒーモスを見て、幻獣神バハムートのことを忘れてた、と言い出した。どこにいるのかと聞いたら、月の、別の洞窟にいるのだそうだ。もうかなり深いところまで来ているので、ここから戻るのも大変だ。リディアには申し訳ないが、諦めてもらった。ベヒーモスじゃ召喚できないからいやだとダダをこねていたが、どうせもともと同じものだし、見るだけで我慢してくれ。
この戦いが終わったら、幻獣神のところに行こうな!
エッジがそんなことを言い出した。なんかエッジに死亡フラグが立ったかのような錯覚を覚えた。
月の最深部に、ゼムスは居た。こいつを倒せばすべてが終わる。そう思っていた。先に来ていたフースーヤとゴルベーザがダブルメテオでゼムスを倒したのだが、ゼロムスとして蘇ると圧倒的な力で俺達を死の淵においやった。
エッジが余計なことを言うから……。
メテオすら効かない。クリスタルの力を使おうにも、もう体が動かない。身動きが出来ないまま、ただゼロムスの最後の審判を待つだけだった。仮に体が動いたとしても、ゼロムスに対抗できるかどうかもわからない。どうやら、心も折れてしまったようだ。意識が遠のく中で、青い星の人たちの声が聞こえた。とてもあたたかい声だ。最期の最期で救われたような気がした。パロムやポロム、ギルバート。死んだテラの声も聞こえた。キタキタおやじも、シドも、みんなありがとう。