なんという評価に困る作品であることよ。
・絵を見せたいのはわかるが、少なくとも物語を見せようとはしていない。
水の表現が他になく(正確には、あったと思うが、作品が思い出せない)、ダイナミックで見ていて面白いのだが、肝心のストーリーが一見まとまっているようで、ところどころおかしな部分があり、不安定さを感じる。
・人の綺麗な部分だけではなく汚い部分を見せている。
善意の悪とでも言うのかな。
印象的なのは、序盤にポニョの父親がポニョを探しに地上に出てきたときの、除草剤云々のやりとりか。リサ側からすると見知らぬあやしい人物が妙な格好をして何か得体のしれないものを撒いているようにしか見えないんだけど、実際はそうではない。リサ自身は正義の行使……とまでいかなくとも大切なものを守るための言動なのだが、その言動自体が必ずしも正しくなく、一歩間違えれば人を傷つける凶器になっている。この手のやりとりはアニメだけでなくドラマだって小説だっていくらでもあるけど、わざわざジブリアニメがやってるところが興味深い。
そもそもこの作品では、海という観点からすると人間が悪の立場になっていて、人間の立場からするとそう思ってない。その象徴がフジモトの存在で、彼の計画もまさにその極致にあるところだと思うが、なにぶん彼自身の原動力が自分自身の信念よりも別のところ(グランマンマーレやブリュンヒルデ)にあるようで、結局おまいさんは何がしたいのさ、と見ていて思ってしまうわけだ。
ずいぶん話がずれてしまったが、海というものをメインにして、どこか、自然に対する人の考えのようなものに対するアンチテーゼ的なものを含んでいるように思える。そういう意味では、平成狸合戦ぽんぽこのようなやり方に似ている。あちらは山でこちらは海みたいな。ただ、あちらほどあからさまにやっているわけでもなく、こちらはあくまでもエッセンス的にとどめているので見ていて特に気になるものでもない。
・行動原理がはっきりしない
目の前で起こっている不思議なことを、なぜ疑問を持たずにそのまま受け入れてるんだ? と観客は思うんじゃないかな。
そもそも今回の作品が従来の作品と大きく異なると感じたのは、その世界観を作品の中で説明していないということ。従来であれば序盤の時間を利用し、キャラクターたちの演技や話の展開でそれらが徐々にわかるようにしてあるが、今回はいきなり突きつけてくるから困る。ポニョにしても、そもそもこの世界ではそういう不思議な生き物が当たり前のように存在している世界なのか、そうでないのかで、ポニョを見た人の反応が違ってくるわけだが、“当たり前のように存在している”ような行動を取っている。それは魔法を使った時も同様だし、船乗りであるソウスケの父親が不思議な波を見ても驚かないところもそんな状況と言える。ところが作品中はポニョとその家族・周辺を除けば、そういう不思議なものや出来事は出てこない。当たり前のような振りをして当たり前に感じず、でも、登場人物たちは当たり前のように行動している。そんな観客が感じるところと、登場人物たちが感じているところの大きなギャップがこの作品にあるように思えた。
そんな細かいことを考えずに、目の前で起こっていることを見たまま素直に受け入れて、見たままを感じればいいんじゃね? と言われればそれまでですが、一人取り残されていたトキ婆さん(だっけ?)が、一番まともな反応してるように思えた。ある意味、観客にとっての良心というか、観客側代表というか。
・所ジョージがひどすぎる。
ジブリ作品の、声優が演じてない父親役ってなんでいつも棒読みなんだろうって思うけど、これはその集大成に思えた。「終始、棒読みでお願いします」とでも指示されてるんじゃないのかと思えるくらいに。いや、別にね、自分の考えや感情、思いをうまく他人に伝えられないようなキャラクターを演じる上で必要な表現方法だったと仮定しても、聞いていて不快感に感じるようではどうかと思うわけで(聞こえ方は人それぞれだから、あれを聞き心地がいいと感じる人もいると思いますが)。
・最後に……
なんとなく、ふと思ったことなのだけれど、
1.トキ婆さんとフジモトを除いて、登場人物全員がソウスケと同じ5歳くらいの精神年齢。
2.トキ婆さんは素のまま。
3.フジモトは5歳を演じようとして演じきれてない。
そんな観点でこの作品を見ると、どうだろう。